大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和59年(ネ)29号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  ≪証拠≫によれば、控訴人は昭和五二年四月一日訴外会社との間で、同会社所有の本件不動産について宅地造成工事請負契約を締結し、総額九九四〇万円の工事費を投じて造成工事を完成させたが、訴外会社が倒産状態となり、右請負代金のうち九七四〇万円の回収が困難となつたため、昭和五三年一月一八日本件不動産を代物弁済としてその譲渡を受けたこと、本件不動産は右宅地造成工事によりその価値が増加して約一億三〇〇〇万円の価値のある土地となつたこと、被控訴人らはいずれも右宅地造成工事請負契約のなされる以前に本件不動産に抵当権ないし根抵当権の設定を得ていたものであるが、その後右宅地造成工事がなされた後の昭和五四年四月一八日本件不動産につき抵当権実行に基づく競売開始決定がなされ、同五五年三月一八日代金一億三〇〇〇万円で競落許可決定がなされたこと、執行裁判所は右競売代金につき別紙「代金交付表」記載のとおりの交付表を作成したため、控訴人は右請負工事残代金相当額九七四〇万円は控訴人に優先的に償還されるべきであるとして異議を申立てたが、控訴人は不動産工事の先取特権につき登記を経ていなかつたことから最優先配当は不相当として異議申立を却下され、被控訴人らは右交付表どおりの金員の交付を受け、控訴人は金員の交付を受けられなかつたことが認められる。

二  控訴人は、被控訴人らの右交付金の受領が「法律上の原因のない利得」にあたり、不当利得が成立する理由として、控訴人が本件不動産について民法三二七条所定の不動産工事の先取特権を有していたのに被控訴人らはこれを無視して配当を受けた旨主張する。

しかし、民法三三八条によれば、不動産工事の先取特権は工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければ、これをもつて第三者に対抗することができない旨定められており、控訴人が右のような登記を経ていなかつたことは前記のとおりであるから、控訴人が右不動産工事の先取特権をもつて被控訴人らに対抗できず、従つて被控訴人らが本件不動産の抵当権の効力に基づいて、控訴人に優先して競売代金のうちから弁済を受けたとしても、それは法律上定められた優先順位に従つて弁済がなされたというにすぎず、これをもつて控訴人主張のごとく被控訴人らが控訴人の先取特権を無視した配当を受けたものということはできない。

控訴人は、被控訴人らはいずれも本件不動産について控訴人が宅地造成工事をなす以前から抵当権を有しており、また宅地造成工事をなすについて同意を与えていたものであり、同工事により本件土地の価値が増加することを十分予想し得ていたものであるから、控訴人は登記なくしても右先取特権を被控訴人らに対抗できる旨主張する。そして被控訴人らがいずれも本件不動産について控訴人主張の宅地造成工事がなされる以前から抵当権ないし根抵当権を有していたものであるところ、訴外会社が本件不動産について造成工事を行なうに際して、開発行為の施行に同意する旨の同意書の交付を被控訴人らに依頼したので、被控訴人らが右内容の同意書を訴外会社に交付したことは被控訴人らの認めるところであるが、右事実があつたにしても、控訴人主張のごとく登記なくして右先取特権を被控訴人らに対抗することができるものとは解されないし、他に登記なくして右先取特権の対抗を認めなければ、先取特権を認めた法の趣旨に悖るような格別の事由のあつたことを認めるに足る証拠もない。

三  次に控訴人は、民法三九一条の趣旨からして、控訴人が本件不動産に投入した宅地造成工事費用は競売手続中で被控訴人らの抵当権に優先して償還されるべきものであつたのにこれがなされなかつたものであるから、不当利得が成立する旨主張する。

しかし、民法三九一条の趣旨は、抵当不動産の第三取得者が抵当不動産上の地位(所有権、地上権、永小作権等)に基づいて、抵当不動産の価値の維持・増加のために必要費又は有益費を支出したときはこれを一種の共益費としてなんらの公示もなく当然に最先順位の抵当権にも優先すべきものとするものであるから、本件のごとく、控訴人が本件不動産についてその所有者との間で請負工事契約を締結して、これに基づいて費用を投じた後、右請負工事残代金の支払のために本件不動産の所有権を取得したような場合にまで同条の適用がおよび、右請負工事残代金を抵当権に優先して償還すべきものとは解されないから控訴人の右主張は採用できない。

四  更に控訴人は、控訴人が本件不動産に対してした宅地造成工事は、一面において、控訴人にこれに要した財産及び労務の提供に相当する損失を生ぜしめ、他面において、被控訴人らに右に相当する利益を生ぜしめたものであり、また控訴人は訴外会社に対して宅地造成工事の対価としての請負工事代金債権を有するものの、同債権は訴外会社の無資力のため無価値であり、このような場合は不当利得が成立する旨主張する。

しかし、被控訴人らはいずれも訴外会社に対して貸金債権その他の債権を有しており、これが抵当権あるいは根抵当権付のものであつたため、本件不動産の競売代金については、法律の定める優先弁済の順序に従がえば、同じく訴外会社の債権者たる控訴人に優先して弁済を受けるべきものと定められている結果、右債権の回収を得たというにすぎないものであり、これをもつて被控訴人らに「法律上の原因のない利得」があつたものとして、不当利得が成立するものとは解することができない。もしこのような場合にまで不当利得の成立を認めるときは、優先権のない控訴人の債権について優先権を認めると同一の結果となり不当である。

なお右のように、本件においては、被控訴人らに「法律上の原因のない利得」があつたものとはいえない以上、控訴人主張のごとく、本件不動産について訴外会社と控訴人の間でした代物弁済契約が譲渡担保的性格のものであり、あるいは同契約が解除され又は錯誤により無効であることによつて、控訴人の訴外会社に対する請負工事残代金債権が依然として存続していると否とにかかわらず、不当利得の成立する余地はないものというべきである。

五  そうすると、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である

(裁判長裁判官 伊藤和男 裁判官 西村則夫 清水次郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!